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歌詞投稿コミュニティ「プチリリ」

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サスクハナ号の曳航Ⅱ

アーティスト:山本 正之  アルバム:山本正之シングル文庫  作詞:山本正之  作曲:山本正之  品番:BXDA-2102

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中野坂上のコーポラスの仕事場で ボクはペンをコトリと置いた ギターの弦もすべて緩めた 地理や歴史や科学の本を 箱にしまった 愛しいアニメのタイムボカンが 遠去かり 仲間の証のJ9も消えて 野球の事も喜劇の人も 気がつけば重たい石に変わってた 歌を作って何がふるえたか 歌をうたって何を変えたか 終わりにしよう 最後と決めよう 昭和五十八年の晩秋のことだった からっぽの心で街を歩けば 明るい景色がするりと逃げる 新宿西口の公園にたどりつき 夕闇のベンチに座ってみれば いろんな種類の犬たちが走る 吠えたり鼻を鳴らしたり 追いかけあい噛りあい 自由に無心に群れ遊ぶ中で 一匹だけおかしなふんい気の ヤツがいる 哲学的といおうかアウトローと 呼ぼうか どうやら主人もいない つんつん毛の雑種犬 そいつはムクっと体を起こして トコトコタラッタッタ こちらに寄ってくる 目を合わせたままボクの前で 止まると 犬のクセにニコっと笑った それはいつかどこかで 会ったことがあるような そしていつもどこでも 会えるような面差し 「あー!ピスだ!ピスか? おまえピスなんだろう!」 「ワン!」 「ひさしぶりだなあ!」 「ワンワン」 「20年ぶりかー?」 「ワンワンワン‥‥ワン!」 「おまえも大人になったなー」 「ワンワンワッ、ワンワン」 「え?どうしたの?」 ピスはうしろにまわって ボクのジーンズの おしりのポケットを ペロペロなめだした 「おいピス、 いくらうれしいからって おしりをなめるなよなエッチ」 「ワン」 「え?あ、これか、 これは手帳だよ」 「何?この中?」 「ワン」 「えーと、これは、」 「ワン!」 「最初に乗った カローラビュンビュン号の 写真でしょー そいでこれは武蔵野女子大学の 時間割表でしょー 1マルクのお札でしょ で、これは、‥‥これは‥‥」 「ワン!」 これはあの時 夏休みの一日で 作って乗って出会って 移動した想いを レポート用紙に鉛筆で書いた いちばん悲しくていちばん うれしい船の絵 「ワン!」 「えー?」 「ワンワン」 「もう一度この船に乗るの?」 「ワン」 「だってこれ絵だよ、 絵の中に入れる訳ないじゃん」 「ワンワンワン」 「なーに、そーいうのを 非常識だってゆうの?」 「ワン。」 「そーか、 想えばいけるんだったよな、 どこへでも 想えば会えるんだったよな、 誰にでも」 「ワン」 「ピス、‥‥忘れていたよ、 大きくなるほどに、 忘れていたよ‥‥」 「ワン‥‥」 「よし、戻ろう!、 この絵に入ろう!」 もう一度、 この船に乗ろう!!」 「ワン!!」 ピスは船の絵を ボクの手からくわえとり 宵闇に跳ね上がり空中で離す 疾風に巻かれてくるくるまわって 船の絵はどんどん大きく迫る ピスが耳立てて絵の中に飛び込む シッポをつかんでボクも飛び込む 突然ほっぺたにぶつかる水しぶき 同時に感じる 海の色 潮の味 ザザーン ザザーン ザザーン そこはものすごい嵐が暴れて 帆は翻りマストきしみ 甲板はかたむき 真っ暗闇の大海原で 船は木の葉のように揺れて ギギギギ沈みそう 「うわー!すごい嵐だ!」 「ワン!」 「これは本当にあの船なのか! 船長もいないし、 乗組員たちも みあたらない‥‥こりゃ一体、 どーなっとるんだぁ」 「ワンー」 巨大な波がしらが船をさらって おおきくきしんで ボクとピスをほうり出す 「ザバドブザバーン!ピスー!」 「ワーン!」 「ザバドブザバーン!ピスー!、 オレ、泳げないんだよー!」 ピスが全身の海水を振り飛ばし ボクの二の腕を口でとどめる ボクは海中で必死にもがいて やっとのおもいで ピスの背中を抱える 「たすかったよ ピス、サンキュー」 「ワンワン」 嵐の中を船は遠のいて 次第に次第に海は落ちつく ボクはピスの胴体といっしょに one paddle one paddle 海を進む 「ピス‥‥わかるか‥‥」 「ワン」 「あれは、 ‥‥パラベルの入江だ‥‥」 ピスはボクの腕から くるりと離れて 水をまわして沖へと戻る 「おいピスどうしたんだ、 もうすぐ入江だよ、 いっしょにいかないのか」 ピスはだんだん体を沈める 「ピス‥‥そうか、おまえは、 陸に上がれないんだな ちがうところで 生きているんだな‥‥」 「ワーーン‥‥」 「ピス‥‥ また、‥‥ また会えるんだよね‥‥」 「ワーーン‥‥」 ボクはパラベルの入江に流れつき 白い浜辺に足跡をつくる 松林のそばで横になって休めば いつか深い眠りに入り込んだ ざあざあしゅるるる波の音 100も200もの波の音 「おい、ボク、目が覚めたかね」 「う、うーん」 「あー、気がついたねぇ」 「はぁー?」 「傷口は痛むかね?」 「えー?傷口って、 別にケガしてないよー」 「うーん、まだ頭が はっきりしとらんねー、 ほいじゃお父さんが 話したげるで、 ちゃんと思い出すだよ、 約束をしたねぇ」 「約束?」 「うん、幼稚園の時、 お父さんとした約束だ、 小学校三年生の 夏休みになったら、 脱腸の手術をする、約束」 「ダッチョー?!ほぇ?! あ、だっちょう、うん、 やくそくしたッチョー」 「あー、 やっとボクらしくなったねぇ、 おい、お母さん、 ボクが気がついたよー」 「まーくん」 三河安城の更生病院 外科の病室 ベッドの中 ボクの両足にリンゲルの点滴 昭和三十五年八月一日 「星野さんのお兄さんが 全身麻酔で亡くなっとるでねぇ ちょっと心配したよ、 目が覚めてよかった、 あとはもう、どんどん よくなるだけだでね、 退院したら すきなだけ走れるで、 ほだ、夏休みのうちに、 野球に つれてってあげるでねぇ」 中日球場 ドラゴンズとタイガース 石川緑がボコボコに打たれて 「おかしいなー、石川の球は こう曲がってきて、 こうくるもんで だーれも 打てんはずだけどなー、 あ、わかった、 今日は相手が阪神だもんで、 ちーとナメとるだなー」 杉下監督がベンチから出て来て 代打を告げた 江藤慎一 ネクストサークルで バットを振る江藤が スタンドのボクを見た キラリと笑った サスクハナ サスクハナ オレとDadの 船がゆく サスクハナ サスクハナ ビリジアンの海を 中学生の三年の夏休み 高校受験はどこにするのか 「音楽をやりたいんだろう 菊里を受けたいんだろう」 翌日の夕方玄関の前に 丸栄デパートのトラックが着き 作業着の人が幌を解いたら 新しいアトラスの アップライトのピアノ サスクハナ サスクハナ オレとDadの 船がゆく サスクハナ サスクハナ ビリジアンの海を


投稿者: ソロバン
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