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歌詞投稿コミュニティ「プチリリ」

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現代謡曲全集 別巻16_鉢木

アーティスト:観世銕之丞 

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鉢木《はちのき》 <次第>ワキ「行くへ定めぬ道なれ ば、行くへ定めぬ道なれば、来しか たもいずくならまし。 <名ノリ>ワキ「これは一所不住の 紗門にて候、われこの程は信濃の國 に候ひしが、あまりに雪深くなり候 ほどに、まづこのたびは鎌倉に上 り、春になり修行に出ばやと思ひ候 <上歌>ワキ「信濃なる、浅間の岳 にたつ煙、浅間の岳にたつ煙、遠近 人の袖寒く、吹くや嵐の大井山、捨 つる身になき伴の里。今ぞ憂き世を 離れ坂、墨の衣の碓氷川、下す筏の 板鼻や、佐野のわたりに着きにけ り、佐野のわたりに着きにけり。 <着きゼリフ>急ぎ候ほどに、上野 《こおずけ》の國佐野のわたりにつ きて候、あら笑止や、また雪の降り 来たりて候。この所に宿を借り泊ま らばやと思ひ候 <門答>ワキ「いかにこの屋の内へ 案内申し候 ツレ「たれにてわたり候ふぞ ワキ「これは修行者にて候、一夜の 宿をおん貸し候へ ツレ「易きおんことにて候へども、 主のおん留守にて候ほどに、お宿は かなひ候ふまじ ワキ「さらばおん帰りまでこれに待 ち申さうずるにて候 ツレ「それはともかくもにて候 わ らはは外面に出で迎ひ、この由を申 さばやと思ひ候 シテ「ああ降つたる雪かな、いかに 世にある人の面白う候ふらん、それ 雪は鵞毛に似て飛んで散乱し、人は 鶴《かく》-敞毛《しょお》-を被 て立つて徘徊すと言へり、されば今 降る雪も、もと見し雪に変わらねど もわれは、鶴《かく》-敞毛《しょ お》-を被て立つて徘徊すべき、袂 も朽ちて袖狭き、細布衣陸奥の、け ふの寒さをいかにせん、あら面白か らずの雪の日やな。 <門答>シテ「あら思ひ寄らずや、 この大雪に、なにとてこれには佇み ておん入り候ふぞ ツレ「さん候ふ修行者のおん入り候 ふが、一夜のお宿と仰せ候ふほど に、おん留守のよし申して候へば、 おん帰りまでおん待ちあらうずるよ し仰せ候ふほどに、これまで参りて 候 シテ「さてその修行者はいづくにわ たり候ふぞ ツレ「あれにおん入り候 ワキ「われらがことにて候、いまだ 日は高く候へども、あまりの大雪に 前後を忘じて候ふほどに、一夜の宿 をおん貸し候へ シテ「易きおんことにて候へども、 あまりに見苦しく候ふほどに、お宿 はかなひ候ふまじ、 ワキ「いやいや見苦しきは苦しから ぬことにて候、平に一夜をおん貸し 候へ シテ「泊め申したくは候へども、わ れら夫婦さえ住みかねたる体にて候 ほどに、なかなかお宿は思ひも寄ら ぬことにて候、これより十八町ほど あなたに、山本の里とてよき泊まり の候、日の暮れぬ先にひと足も早く おん出候へ ワキ「さてはしかとお貸しあるまじ いにて候ふか シテ「おん痛はしくは存じ候へど も、お宿は参らせがたう候 ワキ「あら、曲もなや、由なき人を 待ち申して候ふものかな <<門答>ツレ「あさましやわれら かやうに衰ふるも、前世の戒行拙き ゆゑなり、せめてはかやうの人に値 遇申してこそ、後の世の便りともな るべけれ、然るべくはおん宿を参ら させ給ひ候へ。 シテ「さやうに思し召さば、何とて 以前には承り候はぬぞ、いやこの大 雪に遠くはおん出で候ふまじ、それ がし追い付き留め申し候ふべし <□>シテ「のうのう旅人お宿参ら せのう、あまりの大雪に申すことも 聞こえぬげに候、痛はしのおん有様 やな、もと見し雪に道を忘れ、今降 る雪に行きがたを失ひ、ただひと所 に佇みて、袖なる雪を打ち払ひ打ち 払ひし給ふ気色、古歌の心に似たる ぞや、駒留めて、袖うち払ふ蔭もな し、佐野のわたりの雪の夕暮れ、か ように読みしは大和路や、三輪が崎 なる佐野のわたり <歌>地謡「これは東路の、佐野の わたりの雪の暮れに、迷ひ疲れ給は んより、見苦しく候へど、ひと夜は 泊まり給へや。 <上歌>地謡「げにこれも旅の宿、 げにこれも旅の宿、假そめながら値 遇の縁、一樹の蔭の宿りも、この世 ならぬ契りなり。 それは雨の木 蔭、 これは雪の軒古りて、憂き寝 ながらの草枕、夢より霜や結ぶら ん、夢より霜や結ぶらん。 <門答>シテ「いかに申し候、お宿 は申して候へども、なににても候へ 参らせうずる物もなく候はいかに ツレ「折節これに粟の飯の候、苦し からずは参らせられ候へ シテ「いかに申し候、お宿は参らせ て候へども、なににてもあれ聞こし めされうずる物もなく候、折節これ に粟の飯の候、苦しからずはそと聞 こしめされ候へ ワキ「それこそ日本一のことにて候 ふ賜り候へ シテ「のう、聞こし召されうずると 仰せ候、急いで参らせられ候へ。 ツレ「心得申し候 シテ「総じてこの粟と申すものは、 いにしへ世にありし時は、歌に詠み 詩に作りたるをこそ承りて候ふに、 今はこの粟をもつて身命を継ぎ候。 げにや盧生が見し栄花の夢は五十 年、その邯鄲の假枕、一睡の夢の覺 めしも、粟飯炊く程ぞかし、あはれ やげにわれもうちも寝て、夢にも昔 を見るならば、慰むこともあるべき に、のうご覧ぜよかほどまで <歌>地謡「住みうかれたる古里 の、松風寒き夜もすがら、寝られね ば夢も見ず、なに思い出のあるべ き。 <門答>シテ「夜の更くるについて 次第に寒くなり候、何をがな火に焚 いてあて参らせ候ふべき、や、思い 出だしたる事の候、鉢の木を持ちて 候、これを切り火に焚いてあて申し 候ふべし ワキ「げにげに鉢の木の候ふよ シテ「さん候、それがし世にありし 時は、鉢の木に好きあまた木を集め 持て候ひしを、かやうの体に罷り成 り、いやいや木好きも無用と存じ、 皆人に参らせて候さりながら、いま も梅桜松を持ちて候、あの雪持ちた る木にて候、それがしが秘蔵にて候 へも、今夜のおもてなしに、これを 火に炊きあて申さうずるにて候 ワキ「いやいやこれは思ひも寄らぬ ことにて候、おん志しは有難う候へ ども、自然またおこと世に出で給は ん時のおん慰みにて候ふ間、なかな か思ひも寄らず候 シテ「いや、とてもこの身は埋れ木 の、花咲く世に逢はんこと、今この 身にては逢ひ難し、 ツレ「ただ徒らなる鉢の木を、お僧 のために焚くならば、 シテ「これぞまことに難行の、法の 薪と思しめせ、 ツレ「しかもこの程雪降りて、 シテ「仙人に仕えし雪山《せっせ ん》の薪、 ツレ「かくこそあらめ シテ「われも身を


投稿者: misaoozono
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