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歌詞投稿コミュニティ「プチリリ」

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構造的な欠陥 (Alternative ver.)

アーティスト:Lilla Flicka & 新音楽制作工房 & Keysa  アルバム:通過儀礼/Initiation  作詞:加藤咲希 / Goncalves Dias  作曲:伊藤祐輔  発売年:2023-01-13 

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彼が私の部屋を出ていって、一連の行為が終わって、 ほっとする。今夜は私の番だった。あんなにこのとき を待ちわびているのに、最中はこの時間が永遠に続け ばいいのにとすら思っているのに、終わったらほっと し、二度とあの時間が来なければいいのにと切に願う のはどうしてだろう。 放浪者たちの歌が聞こえる。 リズは私を懐古趣味だと言うけれど、私は二百年前の クラシックを聴くのが好きだ。結局私たちは変わらな いから。 彼の名前はジェイムス。艶々のダークブロンド、目の 中の草原には向日葵が咲いている。 瞳の奥の輝きも、しなやかな動きも、滑らかな触感 も、あらゆる言葉を歌に変えてしまう美しい発声も、 とにかく全てが完璧であるとしか、表現する言葉が見 つからない。 彼の話すブラジルポルトガル語はこの世界でいちばん 美しい音楽だ。彼の皮膚に爪を立てればもちろん彼は 血を流すこともできる。 科学は彼を完璧に創り上げた。骨格や筋肉や靭帯や筋 膜や皮膚の再現は比較的容易だった。神経系、運動器 系、感覚器系、循環器系、消化器系、呼吸器系、泌尿 器系、内分泌系、生殖器系、血液、体液、精液に至る まで、彼は人間のようだった。でもそれでいて、彼の 内臓の中でも、いわゆる脳と呼んでも差し支えのない 部位には、生命情報科学者や分子遺伝学者や脳科学者 たちには、未だ再現し切れないことがひとつだけ存在 した。扁桃体の機能の再現である。 扁桃体は、情動を司る部分であり、悲しみ、不安、怒 り、恐れ、愛情といった感覚に関わっている。ジェイ ムスのようなタイプのいきものに関して、科学者たち はこの部分の機能を、人類が持つそれのようには再現 し切れなかった。扁桃体に当たる部位が、全く機能し ないわけではなかった。ただ顕しく弱いのだ。 彼らはジェイムスたちにこの機能を備え付ける為に、 あちこちの惑星に散らばった研究所で、今でも多くの 時間を費やしている。ジェイムスたちの扁桃体の機能 を、人類が持ちうる能力と同等に再現することは、近 い将来、起こり得る。でも少なくとも、それはまだ起 こってはいない。 扁桃体の機能が脆弱であるとはどういうことなのか。 まず彼らにとっては、自らの感情を感じることは難し い。自らの感情を感じることが難しいのだから、人間 の感情に共感することはさらに難しい。その代わり に、彼らには人間に共感しているフリをする機能が備 えつけられている。 ジェイムスは特定の状況に対する良識的な反応をする ことができる。素晴らしく論理的に、自ら考え行動す ることができる。彼の思考は自立している。ただ、彼 には本物の共感能力が欠けている。そして彼はそれを 自覚してすらいる。彼は、自らがどんな存在である か、わかっている。


投稿者: BIG UP!Official
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